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保護者に出来る帰国前後のグッドアクション|実践編2

滞在地での毎日に忙しくても、気になるのが、帰国後の我が子の学校生活。「日本でも楽しんでもらいたい」という切なる願いを実現するため、保護者が帰国前後にできることとは何でしょうか。3人の専門家に提案してもらいました。

具体的な悩みや違和感に対する動きかた

意見をはっきり言ったから?緊急事態です…
子どもがいじめられるようになりました

意見

<国・学校のAction>
犯罪行為と認められるいじめについては警察の介入も

2013年、文部科学省は『いじめ防止対策推進法』を発表し、地方公共団体や学校の設置者、学校等が実施すべき施策等を提示している。それ以降にも、学校等と警察の連携により、犯罪行為と認められるいじめについては警察が介入するようになったことなど、様々な動きがある。文部科学省が開設する『24時間子供SOSダイヤル』は、0120-0-78310(通話料無料)。

<保護者のAction>
「いじめる側が悪い」と加害者に一貫して伝える

いじめに関する議論が交わされる際、日本ではときに「いじめられた側にも多少は責任がある」とする主張に遭遇することがある。中里氏はこれについて「いじめられた側に責任などいっさいない」とはっきり否定する。

「いじめは、いかなる場合も『いじめる側が悪い』のです。だからこそ、我が子がいじめにあった場合、保護者が子どもの側に立ち、絶対的な味方になる必要があります。気持ちを受け止めて共感し、学校側に状況を共有しながら間に立ってもらい、加害者に『いじめる側が悪い』と一貫して伝えます。そして、加害者には悪いことをするとペナルティ(学校全体へのいじめの詳細の周知、保護者を含めた長時間の面談など)を受けることを徹底的に学ばせる必要があります」(中里氏)

竹内氏は「それでも状況が変わらず、いじめが続くようなら、思い切って学校環境を変えるのがよい」と考える。

「私立校など、少人数クラスで教員の目が行き届いている学校が候補になるでしょう。我が子が苦しんでいるのなら、躊躇せず学校を休ませる、そして学校や加害者に働きかけても状況が変わらないようなら環境を変えることをおすすめします」(竹内氏)

「状況によっては、民間のフリースクールや不登校特例校を活用することも選択肢に入れてよいでしょう」と話すのは内田氏。不登校特例校とは学習指導要領にとらわれずに少人数指導や個々に応じた学習・体験を重視する学校のこと。日本全国に点在しており、近年では中学校の課程を中心に少しずつ増えてきている。

みんながYESと言ったら、自分もYESと言わなければならない?
同調圧力を感じて子どもが息苦しそうです

<国・学校のAction>
新学習指導要領でも「同調圧力」の存在の言及

新しい学習指導要領に「集団における合意形成では、同調圧力に流されることなく、批判的思考力をもち、他者の意見も受け入れつつ自分の考えも主張できるようにすることが大切である」との記載が登場。日本の学校生活の中での同調圧力の存在を認め、変えていこうという流れを見せている。

<保護者のAction>
同調圧力の存在もまた「多様性」の一部と伝える

「単一民族国家の意識が強い日本の人々は、統一されていることに安心感を覚えます。保護者も『集団から排除されないように』と我が子にみんなと同じであることを求めてしまいがちです」(中里氏)

海外から帰国するとその雰囲気に違和感を抱いてしまうが…。

「お子さんには『みんな同じ』もまた一つの個性で『多様性』を形成する一部であること、自分の価値観を無理に押し込めなくてよいことを伝えてほしいです。自分と異なる価値観を持つ人たちと交わる環境は、個性に対して寛容な心を育みます。帰国生の我が子が、国内生の友だちにとって、同調圧力を緩和するキーパーソンになるかもしれません」(中里氏)

海外では先生との距離が近くて何でも話せていたのに…
先生と仲よくなれず寂しいと言っています

<国・学校のAction>
先生は児童・生徒と向き合う時間を作る働き方改革を推進

2018年のTALIS(OECD国際教員指導環境調査)によると、日本の中学校教員の1週間あたりの仕事時間は参加48ヵ国(平均38.3時間)で最も長く56.0時間。小学校教員も54.4時間と長い。文部科学省は公立校における働き方改革の推進を進め、仕事時間や業務の適正化、外部人材活用などの施策を展開。

<保護者のAction>
先生の時間を作るために学校参画意識を高める

この悩みは「日本の教員の長時間労働」に深く起因する、と内田氏。2021年春に文部科学省が主導した「#教師のバトン」プロジェクトでは、教師の魅力を伝えるという趣旨に反して、現場から「児童・生徒一人ひとりと向き合えずもどかしい」といった不満が噴出した。ではその多忙さを和らげるために、保護者にできることは?

「まずはこの問題を自分事として考えることです。あれもこれも教員が担って…という現状から脱するには、保護者の理解やサポートが不可欠でしょう。ただもちろん、現在、日本の教員が忙しいからと言って遠慮する必要もありません。相談事があるのなら、平日の勤務時間内に連絡を」(内田氏)

お話を伺った方

臨床心理士 中里文子(なかざと・あやこ)氏

メンタルヘルス・ケアの専門家、AGカウンセリングオフィスの代表。教育委員会や児童相談所での子育て相談に加えて、一般企業の駐在員とその家族のためのカウンセリングも行う。

フリースクール校長 竹内薫(たけうち・かおる)氏

小3から小5までアメリカの現地校に通った帰国子女。現在はNPO法人日本ホームスクール支援協会認定校、YES International School 東京校の校長として、多様な学びを推進している。

名古屋大学大学院准教授 内田良(うちだ・りょう)氏

教育発達科学研究科所属。専門は教育社会学。『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社)など、「部活動・教職を持続可能にすること」に関する著書や共著多数。

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