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国際芸術祭「東京ビエンナーレ 2020/2021」(2) STEAMの実践を聞く

社会に飛び込んで問題を発見・解説する能力を育てるプロジェクト

昨日の(1)に引き続き、7月10日より開幕中の東京を舞台にした国際芸術祭「東京ビエンナーレ2020/2021」を紹介する。(トップ画像/Hogalee《Landmark Art Girl》2020 神田小川町宝ビル Photo by YUKAI (C)東京ビエンナーレ)

本芸術祭の活動コンセプトのひとつに「EDUCATION(教育)」があり、公式サイトによると“STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)を実践する触媒となるだろう”とのことだが、具体的にどのような取り組みをしているのだろうか。プロジェクトプロデューサーを務める建築家の中西忍(なかにし・しのぶ)氏に聞いた。

「STEAMという言葉はだいぶ日本でも取り上げられるようになってきましたが、簡単に言うと、5つの専門領域を横断的に学ぶことで実社会での問題を発見し解決する力を伸ばすことです。東京ビエンナーレ自体は人文科学系のイベントに分類されますが、実際の運営には理数系の人も多くかかわっていて、社会における問題意識を共通項として一つのイベントを共に作り上げています。まさにSTEAMの実践ともいえますが、これを教育体験の中に盛り込んでいく試みを行っています。その試みのひとつが、『ソーシャルダイブ・スタディーズ』です。これは大学生や社会人向けのプロジェクトですが、社会の問題を直に感じて解決するためには、1つの領域や1つの大学にこだわっていてはできないので、大学同士を結び付けて新しい教育スタイルを作ろうということで始まりました」

『ソーシャルダイブ・スタディーズ』は、大学教員有志によって組織された学環創出プロジェクトをもとに開設したもので、街や人々のコミュニティに飛び込んでアートプロジェクトを起こしていける人材を育てるプログラムだ。さまざまな分野の研究者や経営者を講師に招き、受講者が話を聞くだけでなく対話や議論を続け、レポートを提出、さらにアートプロジェクトの構想案を提出してディレクター陣が講評するなど、会期を通じた学びの場を提供している。

いらないおもちゃを“かえっこ”することで物の大切さを学ぶ

また、中西氏が、子ども向けのアートプロジェクトとして挙げてくれたのが、藤浩志(ふじ・ひろし)氏の『kaekko Expo.』だ。これは、不要となったおもちゃ類をツールとした子ども達主体のコミュニケーションプログラム「かえっこ」の22年間の歩みを紹介し、システムを検証し、蓄積された膨大な数のおもちゃによる空間を出現させるというプロジェクトだ。(8月17日~9月5日にアーツ千代田3331にて開催)。

「いらないおもちゃを誰かに渡したり、誰かのおもちゃをもらったり、“かえっこ”することで、子どもたちは物の大切さを学んでいきます。サーキュラーエコノミー(循環経済)について学ぶ試みなのですが、学問から入るとどうしても頭でっかちになってしまうので、おもちゃの交換、という行為を通じて、物を大切にする倫理観を自然に身に付けていくのです。自分にとって不要なものでも誰かにとっては必要なもので、“いらないものはこの世にない”ということも感じてもらえたら、と思っています」

大人も子どもも楽しみながら学べる「東京ビエンナーレ2020/2021」。足を運べる人はもちろん、そうでない人もオンラインイベントや公式サイトの活動報告などを見ながら“参加”してみてはいかがだろうか。
(取材・文/中山恵子)

池田晶紀《いなせな東京》2012
池田晶紀《いなせな東京》2012 (C)Masanori Ikeda