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国際高専の3年生がNZの教授陣を前にオンラインでプレゼン

英語で工学の基礎を学ぶエンジニアリングデザイン教育を展開

石川県にある国際高等専門学校(International College of Technology, Kanazawa 以下、国際高専)は、工学の基礎を英語で学ぶSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育を重視しています。

国際高専のカリキュラム「エンジニアリングデザイン」教育は、まず、人を助けたり、人のために役立つ行動につなが「洞察する力」「観察する力」「共感する力」を養います。そして、学生たちはこれらの力をもとに、新たな発想やアイデアを創出し、それらを基に形を創り出す=設計するというデザインシンキングのプロセスを経験。将来、グローバルイノベーターとして活躍するための実践力を養います。

NZオタゴポリテクニクの教授陣を前に、プロジェクトの最終発表を実施

2022年2月下旬、国際理工学科3年の「エンジニアリングデザインIII」では、プロジェクトの最終発表が行われました。本来、国際高専の3年生はオタゴポリテクニクで、1年間の留学生活をおくる予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、昨年からオンラインによる授業を受講していました。3年生6名はこうした予期せぬ状況を乗り越え、1年間のカリキュラムを完遂し、最終日を迎えました。

「エンジニアリングデザイン」は、1年次から5年間を通して実践的なものづくりを行う科目。3年生は後学期から個人またはグループでそれぞれのプロジェクトに取り組んできました。英語で行われた最終発表には、10名以上のオタゴポリテクニクの教授陣が出席し、学生たちが発表を終えると、質疑応答が行われました。


学生たちのプロジェクトを紹介します。

オンラインショッピングを促進するARキーホルダー
Developing an AR Keyholder to Enhance Online Shopping

井上武虎さんのプロジェクトは『オンラインショッピング促進のためのARキーホルダーの開発』がテーマでした。コロナ禍で需要が増大したインターネットによる通信販売に活用できる、AR(Augmented Reality)の技術を使ったアプリの開発に取り組みました。

ARは、現実の世界にコンピュータで情報を加えたり、合成したりすることによって仮想の世界を重ねる技術のこと。日本では「拡張現実」と訳されています。例えば、スマートフォンのカメラ機能などを使って、CGで作られた3D映像を現実世界に映し出すこともできます。

現在、ARシミュレーション機能は洋服や化粧品などのインターネット販売には活用されていますが、バッグに取り付けるアクセサリーといった人の身体以外に取り付ける商品に対する機能は、まだ導入されていません。井上さんはこれに着目し、unity、vuforia、blenderというソフトウェアを使い、スマートフォンのカメラ越しにバーチャル・キーホルダーを試着できるアプリを開発しました。

アプリの開発でもっとも苦労したのは、鎖部分のモデリングです。井上さんは今後の課題は、バッグのジッパーなどの指定した部分に固定することができる機能および3Dスキャン機能の追加、そして、指でタップした時の動きの調整だと、語りました。


質疑応答では「キーホルダーを選んだ理由」や「アプリの存在価値」などについてたずねられ、「ARを使った研究がしたかった」「購入前のアクセサリーをバッグなどに取り付けた姿を実際に見ることができるので、通信販売を促進させる効果が期待できる」と回答していました。

SDGs達成に役立つプロジェクションマッピング
Adapting Project Mapping to SDGs

田中杏奈さんと徳山美結さんによるプロジェクトは『SDGsにおけるプロジェクションマッピングの活用法』でした。SDGsの達成に向けた取り組みには、「トレードオフ(何かを達成するために発生する犠牲)」が生じる可能性もあるため、このトレードオフを解消する工夫も重要であるといわれています。そこで、田中さんと徳山さんは、印象に残りやすいプロジェクションマッピングに着目し、複雑なSDGsのトレードオフを学習できるゲームを考案しました。

このゲームは、海、森、町などを再現した人間社会のアニメーションを、白山麓キャンパスにあるボルダリング用の壁に映し出して遊びます。プレイヤーが壁を登って該当箇所をタッチすると、トレードオフの結果が変化として反映されます。例えば二酸化炭素を減らすために風力発電所を建設すると、森林とそこに住む動物が減ってしまうという仕組みです。ゲームの開発後は、実施テストを重ねて、壁に投影されたアニメーションが見やすくなるように、カラーバランスや部屋の明るさなどを調節しました。

発表後の質疑応答では「今後の改善点」や「壁を登っている人の影は邪魔にならないのか?」といった質問があり、2人は「センサー機能を追加してインタラクティブ性を向上したい」「影は問題にならなかった」と答えていました。

高い牽引力をもった自動農業ロボットの車台
Small Undercarriage with High Traction Power

畠中義基さんのプロジェクトは『高い牽引力を有する小型車台』がデーマで、畠中さん自身が開発を目指している自動農業ロボットの車台部分の小型プロトタイプを製作しました。

この車台を製作しようと考えたのは、日本の農業人口の減少や高齢化や世界の食料の80%が小規模農家で生産されているなどの課題が背景にあります。そこで、畠中さんは家族単位で購入できるロボットを作ることで農業人口を増やしたいと考えました。このプロジェクトに取り組める期間が後学期のみで、時間もマンパワーも限られていたため、高い牽引力を有する小型車台に目標に定めました。

まず、CADでギア部分をデザインするところから始め、白山麓キャンパスのメーカースタジオにある工作機械と3Dプリンターでパーツを切り出し、LCD Keypadで操縦コントローラーを製作し、プログラムしました。作業には合計600時間を費やし、車台がキャタピラによって前後左右に移動するところまで完成させました。今後の目標は、畑での牽引力の計測やワイヤレス化、耕す機構部分の製作と自動化を挙げていました。

このプロジェクトはオタゴポリテクニクの教授陣から高い評価と関心をえられ、ロボットの詳細に関する質問が相次ぎました。畠中さんは「最大積載量は40キロ」「バッテリーの稼働時間は約30分」「コストは予想が付かない」などと回答していました。

ペットボトルを再利用したソファ
Reusing PET Bottles for a More Interactive Classroom

オタゴポリテクニクでの留学が、オンラインによる受講になった3年生たちは、金沢キャンパスの教室でリモートの授業を受けています。種村 真央さんは殺風景な印象がある教室を改善したいと、『よりインタラクティブな教室のためのペットボトルのリユース』をテーマに、教室の課題と日本が抱えるゴミ問題を同時に解決するプロジェクトに取り組みました。

事前にクラスメイトにインタビューした結果、一人掛けソファを作ることに決定。その後の調査で、ペットボトルを材料として家具を作るプロジェクトはすでに前例があるものの、いずれもテープで固定したもので、強度が実用レベルではないことがわかりました。

種村さんは独自の方法でペットボトルをつなぎ合わせてから空気を注入することで、高い強度を確保することに成功し、ビニール素材で作ったクッションは補修パテとネジで固定しました。

この椅子の最大積載量は脅威の368キロで、座り心地については使用者から高い評価が得られました。課題としては「クッションの滑りやすさの改善と素材の選定」「量産を目的としたより再現性の高い製作方法」などを挙げました。

質疑応答では「環境への意識向上のために小学校の授業に導入できるのではないか」という意見があり、種村さんは「ネジやハサミなどの鋭利な道具が必要になるが、12歳以上であれば可能性はある」と述べていました。

衣類折りたたみロボット用の洗濯ばさみ
Hanging Dryer for Folding Machine

佐藤 俊太朗さんのプロジェクトのタイトルは『全自動衣服折りたたみロボット用の洗濯ばさみ』です。洗濯した衣服を全自動でたたむロボットは、既に世界でもプロトタイプが開発され、商品化の動きもみられます。そこで、このロボットが想定される機構に対応する、理想的な洗濯ばさみをデザインしました。

まず、CADソフトで洗濯ばさみが開閉するメカニズムを構想し、パーツのデザインを行いました。その後、それぞれのパーツを3Dプリンターで製作し、組み立てを実施。試行錯誤を繰り返しながら完成品をつくりあげました。今後の目標として、開閉メカニズムの改良と、実際のロボットに取り付けた時の動作確認を挙げていました。

質疑応答では「テーマのユニークさ」「機構の詳細」「対応する衣服の種類」についてたずねられ、佐藤さんは「参考にするものがなかったので独自で開発する必要があった」「改善案としてはテンションリングの追加が必要」「現状は薄い布のみにしか対応していない」と答えていました。

サイエンスや数学は世界共通。だからこそ英語で学ぶ

国際高専は、国内外から幅広く学生が集まるグローバルな環境で、刺激を受け合いながら、共に成長できる教育環境を整えています。プロトタイプを作りながら解決策を考えていく「エンジニアリングデザイン」の授業では、国連・SDGsの17の目標を念頭におきながら、地域の課題にチームで取り組み、サイエンスの知識とテクノロジーを応用しながらイノベーションを創出します。


教育の柱のひとつとして、英語で行う「STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育」を重視しています。それは、科学や数学が世界共通の真理であるため、これらの分野を英語で学ぶことは、のちに留学して専門分野を探究したり、卒業後グローバルな企業で活躍するのに役立つからです。


1、2年生は、自然豊かな白山麓キャンパスにある全寮制スクールで、英語で数学、理科、情報を学ぶほか、徹底した英語スキルの修得を目指します。3年生は、ニュージーランドの国立オタゴポリテクニクに留学。そして、4、5年生は併設校である金沢工業大学と連携し、分野横断型の研究やプロジェクトに取り組みます。
さらに金沢工業大学 大学院 情報工学専攻まで進学すると、最短2年間で全米ベスト大学の一つ、ロチェスター工科大と金沢工業大の2大学の修士号取得の道もあります。


「国際高等専門学校(5年間)」+「金沢工業大学の学部及び大学院(4年間)」の9年一貫教育により、グローバル・イノベーターを育成します。

【学校へのお問合せ】

金沢キャンパス
〒921-8601 石川県金沢市久安2-270
TEL 076-248-1080 FAX 076-248-5548
白山麓キャンパス
〒920-2331 石川県白山市瀬戸辰3-1
国際高専入試センター
Mail:admissions@ict-kanazawa.ac.jp