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誰も「無関係」ではいられない|暴力を無くす教育が日本に浸透中

暴力に直面した時、私たちにできることは?子ども・若者たちが具体的に学べる世界的な教育プログラムが、今、日本でも始まっています。

「日本は平和な国だから」ではすまない時代に

暴力というものについて、これまで無縁だった、真剣に向き合ったことがない、という人はおおいのではないだろうか。

しかし、直接まきこまれることはなくとも、私たちは日常生活の中で、否応なしに暴力を目の当たりにしている。例えば、ロシアによるウクライナ侵略、また国内では突然の凶弾に元首相が倒れるなど、痛ましい事件が続いている。

子どもたちはテレビやインターネットを通じて、日々こうしたニュースに晒されている。その心のケアはどうすればよいのか。今、家庭では保護者に、教育の現場では指導者に、子どもの心を守り、導くことが求められている。

「平和と非暴力」のために大人たちができること

「平和な国」とされる日本の学校において、暴力をテーマにした教育が十分に行われてきたとは言い難い。このような状況の中で注目したい取り組みが、NVP(ノンバイオレンス・プロジェクト)だ。1993年にスイスに設立された非営利法人で、「平和と非暴力」の普及活動を行っている。

NVPでは、「平和と非暴力」を学びやすくするために、教育プログラムを提供している。対象となるのは8歳から18歳前後の子ども・若者たちだ。団体設立から約30年を経た今、このプログラムで学んだ人は世界で900万人以上に及ぶ。

NVP設立のきっかけとなたのは1980年、ジョン・レノンがニューヨークで殺害された悲劇的な事件だ。ポール・マッカートニー、オノ・ヨーコなど、レノンゆかりの有名人に始まり、世界各地から著名なアンバサダーたちが数多く参画しているのも、こうした背景がある。

ポール・マッカートニーもNVPの重要なアンバサダーの1人だ。日本国内からは、スポーツ、芸能、文化と幅広い分野から多数の著名人が賛同している。

NVPに学ぶ「平和と非暴力」

さて実際の内容を見ていこう。プログラムは、子ども・若者たちが暴力に直面した時に、どのように対処したらいいのかを具体的に学ぶことができるよう、次の3つのステップで構成されている。

❶ INSPIRE ―――― 気付かせる
❷ MOTIVATE ――― 動機付ける
❸ ENGAGE ―――― 行動につなげる

❶の段階では、暴力を使わずに意見や立場の違い(コンフリクト)を解決できることを学ぶ。
❷では、自己肯定感(セルフエスティーム)を学び、自分と他者の価値を自覚することで、コンフリクトを平和的に解決する具体的な方法を学ぶ。
❸では、積極的に暴力を使わない方法(ノンバイオレンス)を実現するために、具体的な行動につなげていく。

同プログラムは、どのフェーズも対話重視の双方向コミュニケーションにより学ぶものとなっている。そして、履修後には、スイス本部よりディプロマ(修了証書)が授与される。ちなみに❷のセルフ絵スティームは、帰国生にとって特に有効な学びになるだろう。自己肯定感は、環境の変化やそれにともなうストレスで苦しんだ時、大きな助けになるはずだからだ。

様々な学校で平和教育が始まっている

日本では、2015年に日本支部となるNVP Japanを設立。同プログラムの普及に尽力している。

国内でいち早くプログラムを導入したのは、筑波大学や東京インターナショナルスクールだ。筑波大学では、2018年度より、全学群(学部)の3年生以上を対象として、教養教育のための総合科目として「スポーツと平和・非暴力」という授業を実施し、卒業単位の一つとして認定している。またNVP Japanでは、「Train The Trainer(講師を育成しよう)」をモットーに、教員、スポーツコーチなど、子ども・若者たちを指導するリーダーの育成にも努めているという。平和・非暴力の担い手としての次世代育成の試みは、日本でも着実に根付きつつある。

暴力のない世界を
若者や子どもたちと作り出すこと
それがNVPのめざすもの。
コンフリクトを
平和に解決する力があれば
世界から暴力をなくすことができます

―NVP Japan-

NVPのシンボルマーク、結び目のある銃のモチーフ「ノッテッドガン」は、故ジョン・レノンの友人でもある芸術家、故カール・ロイターシュワードが制作した。国連はこれをい非暴力の象徴として設置し、10月2日を非暴力の日と認定している。

取材・文/本誌編集部、竹部伸(株式会社ニイモモクリエイト)