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日本発の運動遊びプログラムをベトナムの現地小学校でも導入

子どもの運動不足と体力低下は世界的な問題

子どもの運動不足や体力の低下が危惧されている。先日も、世界保健機関(WHO)が11~17歳の男女の約8割が運動不足(少なくとも1日1時間の運動を推奨)との調査結果を公表した(11月22日)。この調査は世界146か国の160万人を対象に15年間にわたって行われたもので、対象国に日本は含まれていないものの、日本も以前から同様の問題が指摘されている。文部科学省が1964年度(昭和39年)から行っている「体力・運動能力調査」によると、子どもの体力・運動能力は1985年度(昭和60年)をピークに低下し、ここ10年程は横ばい、またはやや向上している。とはいえ、2018年度(平成30年)の小学5年生を対象にした調査結果(※1)を見ても、1985年度と比較できるテスト項目である「握力」「反復横とび」「50m走」「ボール投げ」のうち、反復横とび以外は、児童の半数以上が1985年度の平均値を下回っている。

こうした現状を改善するために、国はもとより、さまざまな団体・企業が取り組みを行っている。そこで今回は、スポーツ用品メーカーのミズノの例を紹介する。ミズノでは、子どもが楽しみながら運動能力を高められる「ヘキサスロン」(詳しくは後述)というプログラムを開発し、普及活動を行っている。

ヘキサスロンは、走る、跳ぶ、投げる、といった運動の基本動作を楽しみながら体験できるプログラムで、スポーツテストとしても利用できる。開発に携わったミズノ株式会社 研究開発部主任研究員 上向井千佳子(かみむかい・ちかこ)氏は、「子どもたちが楽しくのめりこめるプログラムに仕上げることが課題でした。私たち開発者が面白いと感じたことでも、子どもたちは盛り上がらないといったこともありました。常に子どもにとって面白いかどうかを考えています」と話す。

ベトナムの子どもたちも運動遊びプログラムに大喜び

現在、ヘキサスロンは国内の小学校、のべ83校で導入されていて、25m走やソフトハンマー投げなどの項目で男女ともに運動能力の向上が認められている。また、文部科学省による日本型教育の海外展開・推進の「パイロット事業」に採用され、ベトナムの公立小学校でもヘキサスロンが順次導入されている。
運動遊びプログラム
現地で当該事業を担当している同社の総合企画室アジアグローバルセールスマネージャー 森井征五(もりい・せいご)氏は、「ベトナムの子どもたちに運動する楽しさを広めるために、現地の小学校で導入を進めているところです。喜ばしいことに子どもたちや教師は好意的に受け止めてくれています。ビジネス面での課題はありますが、今のベトナムにないものを補完する意味で意義のある事業です。ベトナムの子どもたちの笑顔がその意義を証明してくれています」と話す。

現在のところヘキサスロンを体験するイベントは行われていないが、我が子の運動不足や運動嫌いを心配する保護者に向けて、前出の開発者・上向井氏にアドバイスをいただいた。

「子どもに運動を押し付けるのではなく、楽しめそうな遊びを選んであげましょう。子どもがボールに興味があるようでしたら、ボールを触る、両手で持つ、片手で持つ、手で転がすといった動作を親子で一緒にやってみてください。転がすことに慣れてきたら、今度は転がってくるボールをとるなど多様な動作を体験できるように工夫します。投げ方や転がし方といった方法を教える必要はありません。子どもは動作を繰り返し行ううちに、動作を洗練させる力を持っています」。

まずは親子で運動を楽しむこと。これが何より大事だといえる。

●「ヘキサスロン」とは

「運動遊び」と「運動能力測定(スポーツテスト)」から構成されたプログラムで、安全に配慮されたオリジナルの用具を使う。運動遊び/走る、跳ぶ、投げるなど運動発達に必要な基本動作を身に付けられるよう作成された遊び感覚の運動。運動能力測定/25m走、25mハードル走、立ち幅跳び、エアロケット投げ、エアロディスク投げ、ソフトハンマー投げの6種目を計測。

※1 「平成 30 年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果について」

写真はヘキサスロンを体験するベトナムの小学生。ミズノ株式会社・提供

取材・文/中山恵子