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博士のおかれている現況や将来は悲観的?前途洋々? 

文系に比べると、理系は大学院進学率が高い。毎年行われている文部科学省の「学校基本調査」によると、日本全国の大学の理学部と工学部を合わせた大学院修士課程への進学率は約4割。国公立大学では約7割、旧帝大では8~9割にも上るという。しかしながら、その先の博士課程への進学となるとぐんと減ってしまう。

理系にかぎらず、日本の大学院進学率はOECD各国平均に比べて高いとはいえないが、さらに博士号取得者数となると、その推移は主要国と比較してまったく芳しくない(下表参照)。

主要国の博士号取得者数の推移

(A)博士号取得者数

博士号取得者数

(B)人口百万人当たりの博士号取得者数

人口百万人当たりの博士号取得者数

他の主要国と比べて日本の博士号取得者の増加傾向がまったく見られないことは、日本の科学技術の進歩を考えるうえで心配である。そこで、株式会社POL(東京都千代田区)は当事者である理系の博士学生とその姿を近くで見る修士学生に、博士学生の実態の聞き取りを行った。

学生のほとんどが博士の厳しい現況を切々と語る

実際に聞き取りに答えてくれたなかから、エピソードをいくつかご紹介する。まずは、「博士のおかれる厳しい環境や悲惨な状況を実感するエピソード」について。

「博士課程に進むと、その専門分野の枠を超えた就職がなかなか難しく、選択肢がかなり絞られるため、変更しにくい。企業への就職を希望している場合、むしろ修士卒のほうが新しいことにチャレンジできるため、博士課程をやめるべきか真剣に考えた時期がある」(博士課程/機械)

「修了して大学で活躍したくても、そもそも教授のポストが少ない。助教授でさえ、公募の倍率は40倍を超えている。そして、その道が開けたとしても、分野に精通している教授から嫌われたら、その世界で生き残れないから耐えるしかない」(博士課程/建築・土木、生物・農)

「私は来年から博士後期課程に進学する。給付型の奨学金に応募しているが、まだ来年度の収入源は決まっていない。このままだと、貸与型の奨学金をもらうことになるだろうが、今までの大学6年間も奨学金を借りているため、返済額が大変な額になるだろう」(修士課程/化学)

「博士課程に進んで良かった」と思わせるエピソードも

一方、「博士課程に進んで活躍している、博士の未来は明るいというのを感じたエピソード」については、約半数の人が無回答で空欄が多く、「皆無」や「一切なし」「明るいわけがない」「不平不満、教授への文句しか聞きません」などといった書き込みも見られた。とはいえ、明るいエピソードも寄せられているので、見てみよう。

「博士課程中に行った海外の研究所から卒業後に就職のオファーをもらった。海外企業の研究所での就職の話は修士課程ではあり得なかったことなので、博士課程に進学して良かったと思った」(博士課程/化学)

「博士課程の先輩が、有名な外資系企業の本選考をかなりショートカットして受験していた」(修士課程/物理・数学)

「修了しても就職先がないと言われるみたいだが、自分の研究分野では周りで就職できなかった人をみたことがない。みな優秀だったからかもしれないが」(修士課程/化学)

優秀な博士学生が活躍できる社会の実現を!

大学院学生たちの声はやはり心配なものも多いが、努力をし優秀である学生に目を向ければ、明るい未来があることもみてとれる。これらのエピソードの募集を行った株式会社POLは、優秀な理系学部生・院生を企業がスカウトできる採用サービス『LabBase(ラボベース)』を提供している。同社の博士イベント担当者・宮崎航一(みやざき・こういち)氏は今回寄せられたエピソードやこれまで大学院生から寄せられた相談を振り返り、次のように語る。

「LabBaseの利用者の多くは修士学生ですが、就活の悩み相談を受けていると、博士学生の方の悩みは修士学生の方よりも深刻であることが多いです。一方で相談にくる博士の方は非常に優秀な方が多く、こういった優秀な人材がもっと活躍できるようにしたいと強く思うようになりました。今後は博士学生の方向けのオンラインイベントも実施し、より多くの企業に博士学生との接点を作っていき、博士学生の魅力を発信してきたいと考えています」

(取材・文/大友康子)