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小学生発案の便利グッズに賛否、共に開発した大学生に聞く(前編)

ランドセルを軽く運べるグッズに批判コメントが殺到

小学生たちが「これは便利! 小学生の役に立つし、大人にもきっとほめられるはず」と思って作った商品の完成ニュースに、大人たちから1000件を超える批判コメントがつくというまさかの事態に、当事者たちがショックを受け、憤慨しているという。<悲しい発売>として紹介された「さんぽセル事件」とは?

話題となっている商品は、重たいランドセルを体感で約90%軽く運べるというスティック「さんぽセル」。栃木県の小学生の双子や兄妹(トップ画像)が中心となり発案、大学生が一緒に試行錯誤して企画・開発・商品化を進め、株式会社 悟空のきもちTHE LABOが4月19日に発売を開始した。既存のすべてのランドセルに取り付け可能で、キャリーのようにして運ぶことができる。すでに3000台の注文があり、現在は3か月待ちだ。

先日、発売の情報がネットニュースに掲載されると、「ランドセルは後ろに転げたときに頭を打たない為にあるってことを知らない人が多いよね」「重たいだろうけど、楽したら筋力低下していかん!」「考えた子たち馬鹿そう」などの批判コメントが並んだという。これらに対し、小学生たちは「そもそもランドセルが重たいから後ろに転ぶんじゃん。おとなも灯油缶を満タンで背負ってみてよ!ぜったい後ろに転ぶよ!」「灯油缶を、いまも毎日背負ってる大人のひとがいうなら許します。もし灯油缶を遠くに運ぶなら、大人はみんな軟弱にならないよう背負いますか?きっとタイヤで運ぶと思う。おなじだよ!」「僕たちが考えたもの人気で3か月待ちになりました」などと反論している。

小学生が発案し、大学生と一緒に商品化

これが「さんぽセル事件」のあらましだが、小学生による小学生のための商品がなぜ大人たちの反感を買ったのか、それを彼らはどう思っているのか。小学生と一緒に商品開発を行った大学3年生の太田旭(おおた・あさひ)氏に話を聞いた。太田氏は琉球大学の医学部生で小児科医を目指しているが、コロナ禍で休校やリモート授業が続いて時間ができたため、悟空のきもちTHE LABOの拠点(神奈川県内)に数名の大学生とともに暮らしながら、“子どもの力で社会を動かす”というLABOのコンセプトのもと活動をしている。

「きっかけは、日光市で子どもたちに廃校の小学校を遊び場として開放している会社から、声をかけていただいたことです。雨の日に遊ぶ場所がなくて“ゲーム機がほしい”とねだる子どもたちに、自分たちで稼いで買うための手段として、夏休みを利用して商品開発をレクチャーしてほしい、ということでした。僕たちは日光へ行って小学生たちと仲良くなり、夏休みに入ってからアイディアを出しあいました。当時4年生の双子の兄弟が『さんぽセル』の原案を出してくれて、その3か月後の11月には特許商品化できました」

試作中の小学生たち

“脱ゆとり”で教科書は重く。ランドセル症候群も問題に

小学生たちを悩ませているランドセルの重さだが、重いときは10gを超えることも。通学時の平均的な重さは6kgで、小学1年生の平均体重が20kgなので、これを体重60㎏の大人に換算すると18㎏の荷物に相当するという。

大人が18kg(2Lペットボトルを9本)の荷物を背負う疑似体験

「ランドセル症候群と呼ばれていますが、重いランドセルを背負うことで、姿勢の悪化や背骨の変形、慢性腰痛などの健康被害が出ています。なかには心身への負担から学校に行くのがつらくなってしまう子もいるんです。しかも、最近は以前よりランドセルが重くなっています。ゆとり教育中の2002年と、“脱ゆとり”の現在を比べると、教科書が大型化していて、重さは約2倍になっているという調査もあります」(太田氏)

このため、文部科学省では2018年9月より「置き勉」(教科書などを学校に置いておくこと)を認めているが、実際には多くの小学校でいまだ置き勉は認められていない。こうした現状を知ると、「自分たちもランドセルを背負ってきたんだから、今の子どもたちもそうするのが当然」という考えは改めなければならないといえる。
明日掲載の(後編)に続く。

(取材・文/中山恵子)