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帰国後の子ども年齢別ケアの手引き⑥ ~不安定な気持ちを支えたい中学生~

不安定な気持ちを支えたい中学生

初めて経験する先輩・後輩関係や思春期ならではのモヤつきに戸惑い、進路に対する不安も大きくなって、総合的に不安定になる時期。「大丈夫」「それでOK」と、安心感を与えられるのは保護者です。

不安定な気持ちを支えたい中学生

過干渉にならない範囲で我が子のサポートを

中学生は第二次性徴とともに心身両面でのバランスが崩れ、保護者の干渉から逃れようとする「第二反抗期」に突入する。この時期はずっと日本で暮らす子どもでもさまざまなことに悩み、それが保護者への八つ当たりなどの行動に表れる場合も。海外からの大移動を終えて生活の基盤を固めなければならない帰国後の子どもはさらに大変だ。保護者はたとえ我が子が荒れたとしても、否定はせず、冷静に受け止める努力を。

「先輩・後輩関係、敬語の使い方、部活動、進路…。この年齢層が抱える悩みは尽きません。保護者は塾への送り迎えのときに愚痴を聞く、好物を料理してみる、(仲間と関係を深めるためなどで)スマホが欲しいようなら検討するなど、過干渉にならない範囲でサポートしてください」(中里氏)。

お悩み相談室 子どものお悩みに対して保護者は何ができる?

【学校生活編】

Q. 今の学校では部活入部が必須。入らずに他のことをしたいなぁ…。(アメリカの現地校に通ったSさん)

A. 活動の内容や時間をよく調べさせて自分に合う部を探させる

学校の決まりで「全員入部」となる場合は、活動内容・活動時間などの実態をよく調べさせ、自分に合った部を選ぶようお子さんに伝えてください。部活以外にやりたいことがあるのなら、比較的早く帰宅できる部活を選ばせて、帰宅後にやりたいことをさせる。「そのためにできることは協力するよ」と伝えてあげると心強いと思います。(後藤氏)

Q. 運動会の行進練習で、なんで全員の手足が揃わなきゃいけないの?(アメリカの現地校と中国のインターに通ったMさん)

A. 「演技する」という気持ちで取り組んでみることを提案する

運動会でダンスを演じることと同じで、運動会の入場行進はひとつの演技種目という考え方です。そのことをお子さんに教え、「ビシッと揃った演技は美しいよ」とお子さんに伝えてみるのはいかがでしょう。(後藤氏)

【人間関係編】

Q. 意見をハッキリ口にしていたら、「言葉にトゲがある」と言われた。(アメリカの現地校に通ったAさん)

A. 日本語は複雑で奥ゆかしい言語だとあらためて説明を

大前提として、「意見をはっきり言うことは、悪いことではない」とお子さんに伝えてあげましょう。これはむしろ、大人を含め、皆が目指していることでもあります。

ただし、日本語は複雑で奥ゆかしい言語であるため、使い方次第で人間関係に影響してくることが多くあります。例えば「母が私に料理を教えたんだ」と「母が私に料理を教えてくれたんだ」の違い。前者に比べ、後者からは母親に対する感謝の気持ちが読み取れます。こうしたニュアンスの違いが日本語のよさであり難しさでもあることを伝えつつ、親子で一緒に勉強していくのがいいでしょう。「トゲがある」と言われてしまったときは、「細かいニュアンスがまだうまく伝えられなくて勉強中なんだ」と友だちに伝えるよう促してあげてください。(中里氏)

Q. 今の学校の友だちが外国に先入観を持ちすぎている気がする。(アメリカの現地校に通ったKさん)

A. 当該国の人々と直接交流して体験したことを友だちに伝えさせる

外国人に「日本人のイメージ」を聞いた調査では、①礼儀正しい、②親切、③よく働く(働きすぎ)、④おとなしすぎ、⑤表情がない、という結果が出ています。いくつ、当てはまりますか?外国人に対して先入観を持っているのは日本人ばかりではないことが伺えますね。

こうしたステレオタイプはメディアやインターネットなどだけを介して情報を受け取る人に多いものです。お子さんには友だちに自身の海外での実体験を伝えてみるよう促してみてください。(中里氏)

【勉強・言葉編】

Q. 日本の授業は固い。海外ではゆるくて楽しく質問もしやすかった。(イギリスの現地校に通ったMさん)

A. 授業には国民性や文化が如実に現れると理解させて

授業にはその国の国民性や文化が如実に現れるもの。例えばこのお子さんが暮らしたイギリスでは、気の利いたジョークを言えることが大人の備えるべき資質とも考えられていて、教員も例外ではありません。そのため、ジョークを交えながら授業を進行させることも多々あります。これと比較すると、日本の授業が堅苦しく、質問も先生にしにくいと感じてしまうのはやむを得ないことかもしれません。

しかし実のところは日本の先生も、質問は大歓迎です。日本式の丁寧な言葉使いから「ゆるくて楽しいやりとり」にはなかなかならないかもしれませんが、質問があるなら臆せず聞くよう、我が子の背中を押してあげてください。

また最近では日本でも、ディスカッションやグループ研究などで生徒の学ぶ意欲を喚起し活性化を促す「アクティブ・ラーニング」という授業方式を導入する学校が徐々に増えてきています。このこともぜひ伝えてあげてください。(田浦氏)

Q. 2カ月に一度など、テストがしょっちゅうあって、しんどい。(アメリカの現地校と日本人学校に通ったRさん)

A. 1回のテスト範囲が狭くて効率よく学べる方法だよと教える

日本の学校は主に3学期制で、各学期に中間・期末と2回テストがあります。しかし、これによるメリットもあります。1回のテスト範囲が狭いため、スモールステップで効率よく学ぶことができるのです。テストは頻繁にあるほうが、実は効率的に学べることを伝えてみるのもおすすめです。(中里氏)

【その他の違和感編】

Q. 「男の子だから」「女の子だから」という言葉。ムズムズする!(タイのインターに通ったMさん)

A. 保護者は「あなたなんだから」と伝えるようにする

心身ともに男女の違いが顕著になるこの年齢期、保護者としてはどうしても「男の子なんだから」「女の子なんだから」と言ってしまいがちです。ですが、男だから女だから、さらには子どもだから大人だからというよりは、むしろ「あなただから」と個人に目を向けるようにしたいところです。そして家の外での「男(女)なんだから…」という言葉に対しては、「あなたなんだから…」と心の中で翻訳して聞いてみるよう、提案してみるのはどうでしょうか。(中里氏)

お話を伺った方

後藤 彰夫氏

海外子女教育振興財団 教育相談員
後藤 彰夫氏氏

千葉県と東京都の教員、ワルシャワ日本人学校の教諭を経て、東京都公立学校の教頭、副校長、校長に。2013年からは6年ほど本田技研工業株式会社で教育相談室長を務め、2019年より海外子女教育振興財団教育相談員。全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会の事務局長も務める。

https://www.joes.or.jp

田浦 秀幸氏

言語学博士
田浦 秀幸氏

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授として、非常に高いレベルで2言語を操ることのできる子どもたち対象のバイリンガリティー(言語獲得・保持・喪失)などを研究している。帰国生を歓迎する学校等で英語教諭を計15年以上務めた経験も。著書には『科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!』(マイナビ出版)がある。

中里 文子氏

臨床心理士
中里 文子氏

AGカウンセリングオフィス代表、特定非営利活動法人こころんプロジェクト理事長。心理カウンセリングや教育相談、児童相談所での虐待通報・子育て相談、駐在員の家族のメール相談などを行う。「気が重いなあ」「不安だな」と心の病気の小さな芽が出始めたときのカウンセリングを重要視する。

https://agc-office.com

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