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コロナ禍における子どもの運動環境と問題点は?(前編)

「子どもの身体活動の課題」についてナイキがセミナーを実施

長引くコロナ禍で子どもたちの運動不足が気になる昨今だが、去る1月27日、ナイキジャパングループ合同会社主催のシリーズセミナー『「全ての子どもが自分らしく楽しむスポーツとは」第2回~コロナ禍における子どもを取り巻く運動環境の課題と解決策~』がオンラインにて開催された。

ナイキは一般財団法人児童健全育成推進財団とパートナーシップを組んで、運動遊びプロジェクト「JUMP-JAM(ジャンジャン)」を開発するなど、スポーツや遊びを通じて子どもたちの健康と幸福を願う活動を継続している。「JUMP-JAM」の内容実際の取り組みについては過去に当サイトでも取材をしているので参照していただきたい。

今回のセミナーでは、「JUMP-JAM」の監修をしている千葉工業大学創造工学部体育教室の引原有輝(ひきはら・ゆうき)教授が「子どもの身体活動の課題」について講演。その一部をお伝えする。また、当サイトの取材にもお答えいただいたので、<後編>にて紹介したい。

コロナ禍で子どもたちの体力が低下

セミナーではまず、日本の子どもたちの体力・運動能力の経年変化のデータなどが紹介された。それによると、1985年(昭和60年)頃から全体的に低下し続けていたが、1993年(平成5年)頃から改善傾向がみられた。さらに、最近10年間の体力の合計点を見ると、女子は上昇、男子もわずかに上昇の兆しを示していたが、2020年(令和2年)からはぐっと低下していることがわかった(グラフ参照)。

「コロナ禍の影響でこの10年間の成果が元の状態に戻ってしまい、非常に残念な状況になっています。一方で、直近の10年間の国や教育現場の取り組みは間違っていなかったともいえます」と引原教授は考察する。

<体力合計点の経年変化>

出展:スポーツ庁「令和3年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」の概要より

また、テレビやタブレットなどを見る時間(スクリーンタイム)は過去5年間で男子・女子ともに増加している一方、1日60分以上の運動・スポーツ時間は過去14年間で女子よりも男子で著しく減っている、というデータも紹介。

「こうしたことから、体力低下問題と身体不活動の問題は、必ずしも連動していないといえます。仮に子どもたちの体力が改善していても、身体活動を活発にする対策は継続的に取り組んでいく必要があります」

過度な競技性は自己否定につながることも

このほか、子どもたちの身体活動の多寡にはスポーツクラブなど習い事への加入が関係していることや、過度に競技性を追求したスポーツの問題点が示された。例えば、選手に選ばれるかどうかが自己肯定感につながりやすく、選ばれた子どもは自己肯定感を高め、自信をつけ、いっそう頑張る。しかし、選ばれない子どもや晩熟で競技成績が伸びてこない子どもは徐々に自己否定の気持ちが芽生え、スポーツへの関わり方が消極的になり、最終的にはスポーツをやめて家の中でのゲームを好んでしまう、といったケースが少なくない。また、仲間や指導者と良い関係を築けることもあれば、良好な関係を築けずに心の不調を招く子どももいるという。

遊びによる身体活動が心身の健康につながる

こうしたことを踏まえて、引原教授が着目しているのが、<遊び>だという。

「遊びは、見返りや成果を求めませんし、選手に選ばれた子が優位に立つといったような仲間内の関係性の変化も生じません。もちろん遊びの中にもルールはありますが、それはその時々で集まった子どもたちの中で約束事を決めて遊んでいるということであり、スポーツのルールとは異なります。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学がまとめた報告書にも、遊びは子どもたちに独立心や対人関係能力、感情コントロール、自己効力感、創造的思考力、問題解決力などの成長をもたらす、とあります。遊びを通じて体を動かすことで、アクティブなライフスタイルが身に着き、将来的に心身の健康に大きな恩恵をもたらすといえるでしょう」

最後にまとめとして、「その具体的対策のひとつが“楽しい”を追求した運動遊びです。社会での認知を高め、運動遊びの推進を普及し、支援体制を確立していくことが課題です」と締めくくった。続きは明日掲載の<後編>にて。

写真提供:ナイキ/児童健全育成推進財団
(取材・文/中山恵子)